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導入

JK
先生、ベースレイヤーって種類が多すぎて何を買えばいいか分かりません! 「速乾の化繊」か、「防臭のウール」か。どっちがいいんですか? どっちも買うお金はないです!
先生
永遠のテーマだな。だが、答えは「行く山と季節による」だ。 今回は、代表的な3つの素材(ポリエステル100%、メリノウール100%、ハイブリッド)を実際に濡らして、その乾燥スピードと着心地を比較テストした。さらに、なぜそうなるのか、繊維レベルのメカニズムまで解説する。 汗冷えして死にたくないなら、この結果を見てから選ぶんだ。

Image Prompt: 3枚のベースレイヤー(化繊、ウール、ハイブリッド)を並べ、霧吹きで水をかけている実験写真。水が染み込む様子や弾く様子の違いを比較。


第1章: 乾燥スピード対決

先生
洗濯して脱水した後、室内(気温20度、湿度50%)で干して乾くまでの時間を計測した。

1. 化繊(パタゴニア キャプリーンなど)

圧倒的に速い(約30分でほぼ乾燥)
JK
30分!? 早すぎません?
先生
これには科学的な理由がある。ポリエステル繊維は疎水性、つまり水を繊維の内部にほとんど吸収しない。綿などの天然繊維が水分を繊維自体に吸い込むのに対し、ポリエステルは水分率が非常に低く、水や汗が繊維の表面に留まるだけなんだ。
JK
じゃあ、どうやって汗を吸い上げるんですか?
先生
そこが技術の見せ所だ。毛細管現象を利用している。繊維を細くし、断面を異形(特殊な形状)にすることで、糸の中に微細な「水の通り道」を作る。この通り道を通って、汗が肌から生地の表面へと素早く移動する。
JK
なるほど…水を吸わないけど、運ぶってことですね。
先生
その通り。そして生地の表面に広がった水分は、空気との接触面積が増えるため、効率的に蒸発する。これを表面拡散という。だから、脱水するだけでほとんど乾くと言われるほど速乾性が高い。

大量に汗をかくトレランや、真夏の低山では最強だ。ただし、気化熱で体温を一気に奪うため、風に吹かれると寒い。

JK
便利だけど、寒くなるのは困りますね…。

パタゴニア キャプリーンの技術

先生
パタゴニアの「キャプリーン」シリーズは、化繊ベースレイヤーの代表格だ。リサイクルポリエステルを主体に、用途に応じて4つのラインナップがある。
  • キャプリーン・クール: 薄手で日常使いから軽い運動まで対応
  • キャプリーン・ミッドウェイト: 中空糸とダイヤモンドグリッド構造の裏面で、保温性と通気性を両立
  • キャプリーン・エア: メリノウール混紡で極寒環境向け
  • キャプリーン・サーマルウェイト: Polartec Power Grid素材を採用、凹凸のあるグリッド構造で最高の保温性
JK
種類多すぎ…。
先生
さらに、スイスのマテリアルAG社による「HeiQ Fresh」という防臭加工が施されている。これで化繊の弱点である臭いをある程度抑えられる。ただし、2日目には限界が来る。

ファイントラック ドライレイヤー

先生
日本のファイントラックは、さらに一歩進んだシステムを提案している。「ドライレイヤー」という撥水性の高いアンダーウェアを肌に直接着て、その上にベースレイヤーを重ねる5レイヤリングシステムだ。
JK
2枚着るんですか? 暑くないんですか?
先生
ドライレイヤーは非常に薄く、ポリエステル90%、ポリウレタン7%、複合繊維3%で作られている。これが汗を肌から引き離し、ベースレイヤーが吸収・拡散する。肌面が常にドライに保たれるため、汗冷えを効果的に防げる。化繊の弱点である「肌に張り付く感じ」も解消できる。
JK
なるほど、役割分担ってことですね。

2. ウール(アイスブレーカー、スマートウールなど)

遅い(約2時間かかる)
JK
化繊の4倍も時間がかかるんですか!?
先生
そうだ。繊維の内側に水分を吸い込むため、乾くのに時間がかかる。だが、「濡れていても冷たくない」のが最大の特徴だ。
JK
どういうことですか?
先生
メリノウールの繊維には独特の縮れ(クリンプ)がある。この縮れが繊維の間に多くの空気(デッドエア)を閉じ込め、断熱材として機能する。さらに、湿気を吸収する際に「吸着熱」と呼ばれる熱を発生させる。だから、濡れても体温を奪われにくい。
JK
へぇ〜、濡れても暖かいんですね。
先生
ゆっくり乾くので、体温低下が緩やか。冬山や、停滞時間の長い写真撮影などに向いている。

メリノウールの繊維の太さとチクチク感

JK
でも、ウールってチクチクしませんか?
先生
それは繊維の太さによる。一般的なウールは直径30マイクロメートル(μm)以上で、これが5%以上含まれると人の肌は不快なチクチク感を感じる。だが、メリノウールは15.5〜24μmと非常に細い。
JK
どれくらい細ければチクチクしないんですか?
先生
17.5μm以下で一般的にチクチク感が軽減される。高品質なものは15.5μm以下の「ウルトラファインメリノ」で、ほぼ刺激を感じない。中にはカシミヤ並みの13〜15μmのものもある。
JK
そんなに違うんですね!

アイスブレーカーの技術

先生
ニュージーランドのアイスブレーカーは、メリノウールベースレイヤーの老舗だ。15.5ミクロンの超極細メリノファイバーを使用したモデルもある。
JK
柔らかそう…。
先生
さらに、Core Spun Technologyという技術を採用している。メリノウールをナイロンの芯に巻き付けることで、ウールの快適さを保ちつつ、耐久性を向上させている。ウールは摩耗に弱いという弱点があるが、これで克服している。

製品ラインナップは、厚み(ウェイト)で分かれている。130、150、200、260、300 gsm(1平方メートルあたりのグラム数)で、数値が大きいほど保温性が高い。

JK
数字で分かりやすいですね。
先生
「Oasis」シリーズはメリノウール100%で汎用性が高い。「Zone」シリーズは発汗量の多い部分にメッシュ生地を配置し、通気性を促進している。運動量の多いアクティビティ向けだ。

スマートウールの技術

先生
アメリカのスマートウールも人気が高い。Intraknit™ Technologyという3Dボディマッピング技術で、体の動きに合わせた通気性と柔軟性を実現している。縫い目を減らすことでフィット感も向上させている。
JK
縫い目が少ないと何がいいんですか?
先生
摩擦が減るため、長時間着用しても肌が痛くならない。バックパックを背負っても快適だ。さらに、フラットシーム構造ラグランスリーブ(肩の縫い目が斜めになっているデザイン)で、バックパックのストラップとの干渉を避けている。

製品ラインナップは、「Classic All-Season Merino(旧Merino 150)」が軽量で年間通して活躍する。「Classic Thermal Merino(旧Merino 250)」は最も厚手で、厳冬期の登山に最適だ。


3. ハイブリッド(ウール×化繊)

中間(約1時間)
先生
ウールの着心地と、化繊の速乾性をいいとこ取りしている。最近の主流だ。
JK
いいとこ取りって、都合よすぎません?
先生
確かに、混紡率によって特性が大きく異なる。ウール比率が高い(50%以上)と、保温性・防臭性が高まる。化繊比率が高いと、速乾性・耐久性が向上する。
JK
じゃあ、どっちつかずになる可能性もあるってことですか?
先生
その通り。だが、うまく設計されたハイブリッドは、「そこそこ速く乾いて、そこそこ暖かい」というバランスの良さが魅力だ。春・秋の縦走など、バランスが求められるシーンで活躍する。

ハイブリッドの構造

先生
ハイブリッドには、いくつかの構造がある。
  1. 肌面ウール・外面化繊: 肌触りの良さと汗の吸湿・拡散を両立
  2. ウール繊維内にポリエステル: 表面はウールでありながら、吸水・拡散・速乾性を高め、摩擦に強く毛玉ができにくい(例: Teton Bros. AXIO)
  3. グリッド構造: 通気性と保温性を確保
JK
構造まで工夫されてるんですね。
先生
パタゴニアの「キャプリーン・エア」もハイブリッドの一種だ。メリノウールと化繊を混紡し、シームレスな3Dニット構造で肌への不快感を軽減している。

第2章: 防臭力対決

先生
3日間着続けて臭いを嗅いでみた。
JK
え、3日も着替えないんですか!?
先生
テント泊や長期縦走では、着替えを減らすことが荷物の軽量化につながる。防臭性は重要な要素だ。

1. ウール

無臭
先生
やはり最強だ。メリノウールは天然の抗菌作用を持ち、臭いの原因となる細菌の繁殖を抑える。さらに、臭い分子を繊維内部に閉じ込める特性がある。テント泊や長期縦走ならウール一択。
JK
3日着ても臭わないって、すごいですね。
先生
実際、1週間の縦走でもウール1枚で過ごす登山者もいる。

2. 化繊

臭う
先生
最近は防臭加工(銀イオンやHeiQ Freshなど)がされているが、それでも2日目には汗臭さが気になる。
JK
自分の臭いでテンションが下がるのは嫌ですね…。
先生
化繊は速乾性と引き換えに、防臭性を犠牲にしている。日帰りや1泊程度なら問題ないが、長期山行では着替えが必要だ。

3. ハイブリッド

ウールの配合率による
先生
ウール50%以上なら、かなり臭わない。化繊多めだと、やはり臭ってくる。
JK
配合率が重要なんですね。

第3章: 肌触りと着心地

先生
直接肌に着るものだから重要だ。

1. ウール

しっとり柔らかい
先生
天然素材ならではの優しさがある。静電気も起きにくい。特に15.5μm以下のウルトラファインメリノは、カシミヤのような肌触りだ。
JK
高級感ありますね。

2. 化繊

ツルツル・シャリシャリ
先生
汗をかくと肌に張り付く感じ(ベタつき)が出やすい。ファイントラックなどのドライレイヤーと組み合わせることで改善できる。
JK
やっぱり2枚着るのがいいんですね。

3. ハイブリッド

肌面の素材による
先生
肌面がウールなら柔らかく、化繊ならサラッとしている。自分の好みで選ぶといい。

第4章: 洗濯とメンテナンス

JK
ウールって洗濯できるんですか? 縮みそう…。
先生
良い質問だ。メリノウールは洗濯機で洗えるが、デリケート洗いが推奨される。専用洗剤を使うと、繊維が傷みにくい。
JK
手間がかかるんですね。
先生
化繊は洗濯機でガンガン洗える。手入れが簡単なのは大きなメリットだ。ハイブリッドは混紡率により異なるが、基本的にはデリケート洗いが安全だ。
JK
私、ズボラだから化繊がいいかも…。

第5章: 価格比較

JK
で、お値段は?
先生
一般的に、ウール > ハイブリッド > 化繊 の順で高い。
  • 化繊: 5,000〜10,000円
  • ハイブリッド: 8,000〜15,000円
  • ウール: 10,000〜20,000円
JK
ウール高すぎません!?
先生
高品質なメリノウールは希少で、生産コストも高い。だが、耐久性と防臭性を考えれば、長期的にはコスパが良い場合もある。化繊は安いが、臭いが気になって頻繁に買い替えることになるかもしれない。
JK
なるほど…長い目で見るってことですね。

第6章: 結論「シーン別・最適解チャート」

先生
テスト結果から導き出した選び方はこれだ。

1. 真夏の低山・トレラン・運動量MAX

→ 化繊(ポリエステル)

とにかく汗を早く乾かして、オーバーヒートを防ぐ。臭いは諦めて着替えるか、我慢する。
パタゴニア キャプリーン・クール、ファイントラック ドラウト

2. 冬山・雪山・停滞が多い

→ ウール(メリノウール)

汗冷え=死。乾く速さよりも、保温力を優先する。
アイスブレーカー Oasis 200、スマートウール Classic Thermal Merino
JK
冬山は命がかかってるんですね…。
先生
その通り。体温を維持できなければ、低体温症で動けなくなる。

3. 春秋の縦走・変化に富んだルート

→ ハイブリッド

暑くなったり寒くなったりする環境に対応できる。防臭性もあるので、数日の山行もOK。
パタゴニア キャプリーン・エア、Teton Bros. AXIO
JK
私は汗っかきだけど寒がりだから…ハイブリッドかな?
先生
良い選択だ。まずはハイブリッドから入って、より専門的な山に行くようになったら、化繊やウールを買い足すといい。

4. テント泊・長期縦走

→ ウール

防臭効果が最強。着替えの回数を減らせるため、荷物の軽量化につながる。
JK
1週間同じ服って、ウールじゃないと無理ですね。

第7章: 実際の山での使用例

先生
私の実体験を話そう。

化繊の成功例: 8月の富士山

先生
8月の富士山で、パタゴニア キャプリーン・クールを着た。気温は高く、大量に汗をかいたが、すぐに乾いて快適だった。ただし、山頂では風が強く、汗が引いた後は寒かった。ウィンドシェルを重ねて対応した。

ウールの成功例: 10月の涸沢

先生
10月の涸沢で、アイスブレーカー Oasis 200を着た。気温は低く、朝は氷点下。汗をかいても冷えず、テント内でも快適に過ごせた。3日間着続けたが、臭いは全く気にならなかった。
JK
やっぱりウールすごいですね。

ハイブリッドの成功例: 5月の北岳

先生
5月の北岳で、Teton Bros. AXIOを着た。朝は寒く、昼は暑い。ハイブリッドのバランスの良さが活きた。汗をかいても比較的早く乾き、停滞時も冷えなかった。
JK
季節の変わり目はハイブリッドが便利なんですね。

第8章: よくある質問

Q1: ベースレイヤーは何枚持つべき?

先生
最低2枚。化繊1枚、ウールまたはハイブリッド1枚があれば、ほとんどのシーンに対応できる。

Q2: フィット感はどれくらいがいい?

先生
肌に密着するシルエットが基本。汗を効率的に吸い上げるためだ。ゆったりしたデザインの場合は、ドライインナーを重ね着するといい。

Q3: 首回りはジップネックとラウンドネック、どっち?

先生
体温調節のしやすさを考えると、ジップネックが機能性に優れている。日常使いも兼ねるならラウンドネックも選択肢だ。
JK
私は日常でも着たいから、ラウンドネックかな。

Q4: ウールは虫食いに弱いって本当?

先生
本当だ。保管時は防虫剤を使うか、密閉袋に入れるといい。化繊は虫食いの心配がない。

第9章: 比較表

素材 乾燥時間 防臭日数 保温性 価格帯 おすすめシーン
化繊 約30分 1日 5,000〜10,000円 真夏の低山、トレラン
ウール 約2時間 7日以上 10,000〜20,000円 冬山、長期縦走
ハイブリッド 約1時間 3〜5日 8,000〜15,000円 春秋の縦走
JK
表で見ると分かりやすいですね!
先生
「たかが下着」と思わず、その日の天気とルートに合わせて着替えるのが、玄人への第一歩だぞ。
JK
はい、先生! まずはハイブリッドから買ってみます!

免責事項

※本記事の情報は執筆時点のものです。メーカーの仕様変更などにより、製品名やスペックが変わる場合があります。購入の際は公式サイトや店頭で最新情報をご確認ください。