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導入
先生〜!今年の夏こそはテント泊デビューしたいんですけど、リュックがどれも大きくて重そうで…心が折れそうです。
おお、ついにテント泊か。素晴らしい挑戦だな。だが確かに、大型ザック選びは重要だ。体に合わないと地獄を見るぞ。
地獄…!やめてくださいよぉ。なんかこう、背負ってるだけで楽になれる魔法のリュックないんですか?
あるぞ。「バックパック界のロールスロイス」と呼ばれるブランドを知っているか?
それはグレゴリー (Gregory) だ。彼らの哲学は「Don't carry it, Wear it(背負うのではなく、着る)」。今日はそのグレゴリーの中から、テント泊の二大巨頭「バルトロ」と「パラゴン」を比較して、君にぴったりの相棒を見つけよう。
なぜグレゴリーなのか?「着る」リュックの秘密
でも先生、「着る」って…リュックは背負うものじゃないんですか?
それが違うんだ。グレゴリーは1977年の創業以来、「バックパックは体の一部であるべきだ」という哲学を貫いている。だから他のブランドとは根本的に設計思想が違う。
まずフィッティングへの執念だ。人間の体は一人ひとり違う。背骨のカーブ、肩の角度、腰の位置…すべてが微妙に異なる。グレゴリーはそれに合わせて、背面長だけでなく、ショルダーハーネスやウエストベルトまで細かく調整できる仕組みを作り上げた。
最初は手間だが、一度合わせてしまえば、その快適さは他では味わえない。実際、私が以前、北アルプスの槍ヶ岳から穂高連峰を縦走した時、3泊4日で荷物が18kgあったんだが、グレゴリーのバルトロのおかげで肩の痛みがほとんどなかった。
そうだ。だが、グレゴリーの真骨頂は動きへの追従性にある。歩行時、人間の体は微妙にねじれたり傾いたりする。グレゴリーのサスペンションシステムは、そのねじれに合わせてリュック自体が動くんだ。だから荷重バランスが崩れにくく、疲れにくい。
[重装備・長期縦走]なら「バルトロ (Baltoro)」
Image Prompt: 重厚感のあるグレゴリー「バルトロ」を背負い、岩稜帯を力強く歩く登山者の後ろ姿。荷物はパンパンだが安定している様子。
まずはグレゴリーのフラッグシップモデル、バルトロだ(女性用はディバ)。これは「大型リュックの王様」と言っても過言ではない。
うわっ、なんかゴツい!ベルトとかクッションが分厚くないですか?
その分厚いクッションと、腰を包み込むような「レスポンスA3サスペンション」が、20kgを超えるような重い荷物を魔法のように軽く感じさせるんだ。
Response A3サスペンション:自動角度調整の魔法
ははは。「A3」は「Automatic Angle Adjust(自動角度調整)」の略だ。これがバルトロの心臓部と言える。
いい質問だ。通常のリュックは、ショルダーハーネスとヒップベルトが固定されている。だが、人間が歩く時、肩と腰は別々の動きをする。特に山道では、体をねじったり、片足に重心を移したりする。
そうだ。バルトロのResponse A3システムは、ショルダーハーネスとヒップベルトが独立して回転する。つまり、君の肩が右に傾いたら、ハーネスも右に追従する。腰が左にねじれたら、ヒップベルトも左に動く。常に体の動きに合わせて、最適な位置を保ち続けるんだ。
大ありだ。私が以前、10月の涸沢でテント泊した時、紅葉シーズンで荷物が多く、食料も含めて22kgあった。普通のリュックなら肩が悲鳴を上げるところだが、バルトロは腰でガッチリ支えてくれて、肩への負担が驚くほど少なかった。歩くたびにリュックが体に追従するから、重心がブレないんだ。
機能とメリット:細部まで考え抜かれた設計
バルトロの魅力は、サスペンションだけじゃない。収納力と使い勝手も一級品だ。
- 3方向アクセス: 上部、フロント、下部の3か所からメインコンパートメントにアクセスできる。テント設営時、下に入れた寝袋をサッと取り出せるのは本当に便利だ。
- サイドキック・パック: ハイドレーション収納部が取り外せて、アタックザックとして使える。山頂アタックの時、大きなザックをテントに置いて、これだけ持って行けるんだ。
- エアークッションバックパネル: 90%以上がオープンエアのハニカム構造で、背中の蒸れを大幅に軽減する。夏の縦走でも背中が比較的涼しい。
へぇ〜、至れり尽くせりですね!じゃあこれ一択じゃないですか?
リアリティとデメリット:正直に言おう
待て待て。バルトロにもデメリットはある。正直に言うぞ。
まず、本体が重い。バルトロ65のMサイズで約2,230g、Lサイズだと2,380gある。
え〜!リュックだけで2kg以上!?私のノートPCより重いじゃん!
その通り。最近の軽量ザックは1kg台前半も珍しくない。だが、ここが重要なポイントだ。「軽いリュックに重い荷物を入れる」のと、「重いリュックで重い荷物を快適に背負う」のでは、後者の方が圧倒的に楽なんだ。
軽量ザックは、フレームが細く、クッションも薄い。だから10kgくらいまでなら快適だが、15kgを超えると肩に食い込んで痛くなる。一方、バルトロは本体が重い分、フレームがしっかりしていて、クッションも厚い。だから20kg超えても快適に背負える。つまり、荷物が15kg〜18kgを超えるなら、バルトロの重さは帳消しになるどころか、プラスに働く。逆に、荷物が軽いならオーバースペックだ。
価格が高い。4万円台後半から5万円を超えることもある。それと、ウエストベルトのポケットが小さめで、最近の大きなスマホは入れにくい。あと、各ストラップが長めに作られているから、小柄な人は余ったストラップの処理に困るかもしれない。
完璧な道具なんてない。大事なのは、自分の使い方に合っているかどうかだ。
[軽量化・テント泊入門]なら「パラゴン (Paragon)」
Image Prompt: すっきりとしたシルエットのグレゴリー「パラゴン」を背負い、緑豊かな高原を軽快に歩く登山者。爽やかな雰囲気。
次はパラゴンだ(女性用はメイブン)。こちらはバルトロに比べて軽量化を意識したモデルだ。
あ、こっちはシュッとしてて見た目も軽そう!私、こっちの方が好きかも。
パラゴンは「フリーフロート・サスペンション」を採用していて、通気性とフィット感を両立している。バルトロほどの重装備機能はないが、その分本体が軽い。
フリーフロート・サスペンション:柔軟性と通気性
フリーフロートって、さっきのA3とは違うんですか?
そうだ。A3はショルダーとヒップベルトの両方が独立回転するが、フリーフロートは主にヒップベルトが柔軟に動く設計だ。体の動きに合わせてヒップベルトが追従するから、腰への圧迫感が少ない。
機能が少ないというより、軽量化とのバランスを取ったと言うべきだな。A3ほど複雑な機構ではない分、軽くできる。それに、パラゴンの最大の特徴は通気性だ。背面がメッシュ構造になっていて、バルトロよりも蒸れにくい。
夏の低山や、汗をかきやすい人にはパラゴンの通気性は大きなメリットだ。私も8月の南アルプスでパラゴンを使ったことがあるが、バルトロに比べて背中の蒸れが明らかに少なかった。
機能とメリット:軽快さと使いやすさ
- 軽量性: パラゴン68Lで約1,680g。バルトロ65Lより約550g軽い。これは500mlのペットボトル1本分以上だ。
- 通気性: 背面メッシュ構造で、夏でも背中が涼しい。ハーネス部分も肉抜きされていて、汗抜けが良い。
- 調整機能: 背面の長さをミリ単位で微調整できる。通販で買っても、ある程度は自分で合わせられる(とはいえ試着推奨だが)。
- サイドアクセス: メインコンパートメントへのサイドジッパーがあり、カメラなど頻繁に取り出すものに便利だ。
- サングラスクイックストウ: ショルダーハーネスにサングラスホルダーがあり、サッと着脱できる。
軽くて涼しいなら、こっちで良くないですか?バルトロいらなくない?
リアリティとデメリット:限界を知る
パラゴンはフレームが少し細い。だから、荷物が15kg〜18kgを超えてくると、肩に食い込む感覚が出てくる可能性がある。最大積載重量は約22.7kgとされているが、快適に背負えるのは15kg前後までだと考えた方がいい。
そうだ。あと、生地の厚さもバルトロよりは薄い。岩場でガリガリ擦るようなハードな使い方は少し気を使う。それでも、最近のUL(ウルトラライト)ブームもあって、荷物をコンパクトにまとめられるならパラゴンは最高の選択肢だ。
ウルトラライトの略だ。装備を徹底的に軽量化する山行スタイルのことだ。テントも寝袋も調理器具も、すべて軽いものを選ぶ。そうすれば、パラゴンでも十分快適に2泊3日のテント泊ができる。
なるほど…。装備を軽くすれば、リュックも軽くできるってことですね。
その通りだ。パラゴンは「装備を工夫する人」のためのリュックと言える。
[日帰り〜小屋泊]なら「ズール (Zulu)」
Image Prompt: グレゴリー「ズール」を背負い、日帰りの低山ハイキングを楽しむ笑顔の登山者。軽装で楽しげな様子。
おまけだが、もしテント泊をしない、あるいは小屋泊メインならズール(女性用はジェイド)という選択肢もある。
これは背面が完全にメッシュで浮いている「ベンチレーション」重視のモデルだ。背中の涼しさは最強だぞ。
汗っかきの私には神アイテムかも!でもテント泊は無理?
40L〜55Lくらいのモデルもあるから、夏の軽量テント泊なら行ける。だが、基本的には小屋泊や日帰り向けと考えたほうが無難だな。ズールは「快適さ」を最優先したモデルで、重量は約1,500g前後。パラゴンよりさらに軽い。
へぇ〜。じゃあ私みたいな初心者は、まずズールから始めて、慣れたらパラゴンやバルトロに移行するのもアリですか?
それは賢い選択だ。いきなり大型ザックを買っても、使いこなせなければ宝の持ち腐れだからな。
バルトロ vs パラゴン:決定的な違いは「荷物の重さ」
うーん、迷うなぁ。私は体力ないし、荷物はなるべく軽くしたいから…パラゴンかなぁ?
良い視点だ。「自分の荷物が何kgになるか」で決めるのが正解だ。
比較表で見る違い
| シリーズ名 |
容量 |
重量 |
最大積載重量 |
特徴 |
おすすめユーザー |
| バルトロ (Baltoro) |
65L, 75L, 85L |
2,230g〜 |
22.7kg〜 |
Response A3サスペンション、圧倒的な荷重分散、重厚なクッション |
荷物が15kg〜18kg以上、長期縦走、体力に自信がない人 |
| パラゴン (Paragon) |
48L, 58L, 68L |
1,620g〜 |
18kg〜22.7kg |
フリーフロート、軽量と快適性のバランス、高い通気性 |
荷物を15kg以下に抑えられる人、軽快に歩きたい人、UL志向 |
| ズール (Zulu) |
40L, 55L |
1,500g前後 |
〜18kg |
背面メッシュで涼しい、フィット感抜群 |
小屋泊メイン、汗かきの人、夏のテント泊 |
そうだ。もう一つ重要なポイントがある。「どれくらいの頻度でテント泊をするか」だ。
年に1〜2回しかテント泊しないなら、パラゴンで十分だ。だが、月に1回以上、あるいは長期縦走を計画しているなら、バルトロの快適性は投資する価値がある。バルトロは高いが、10年以上使えるから、長い目で見ればコスパは悪くない。
サイズ選びの極意:「着る」リュックだからこそ
最後に一つだけ。グレゴリーは「着る」リュックだと言ったな?
だからこそ、サイズ選びを間違えると地獄を見る。背面長(トルソー)を測ってもらって、正しいサイズを試着してから買うんだぞ。ネットで適当にポチるのは厳禁だ!
背面長(トルソー)の測り方
簡単だ。友人や家族に手伝ってもらって、柔らかいメジャーを使う。
- C7椎骨を見つける: 頭を前に傾けて、首の付け根で一番出っ張っている骨を見つける。これが第7頸椎、C7椎骨だ。
- 腸骨稜を見つける: 両手を腰に当てて、骨盤の一番高い位置を見つける。
- 測定: C7椎骨から脊柱の曲線に沿ってメジャーをまっすぐ下ろし、腸骨稜の高さまでを測る。
なるほど。でも、測定値が2つのサイズの中間だったらどうするんですか?
一般的には小さい方のサイズを選ぶことが推奨されている。大きすぎると、荷重が腰にうまく乗らず、肩に負担がかかるからだ。
フィッティングの手順
サイズが決まったら、次はフィッティングだ。これも重要だぞ。
- 全てのストラップを緩める: ヒップベルト、ショルダーストラップ、ロードリフターストラップ、チェストストラップ、すべてを最大限に緩める。
- ヒップベルトを締める: リュックを背負い、ヒップベルトを腰骨の約2.5cm上部に位置させて締める。ここでリュックの重量の大部分を支える。
- ショルダーストラップを調整: ヒップベルトを締めた後、ショルダーストラップを均等に引き締める。肩の最も高い位置から約8cm下で背中側に回り込むようにする。
- チェストストラップを締める: 胸の中央(心臓の上あたり)で締める。呼吸を妨げない程度に。
- ロードリフターストラップを調整: ショルダーストラップの上部にあるロードリフターストラップを引く。これでリュックの重心が体幹に近づく。
最初は面倒だが、一度覚えてしまえば簡単だ。そして、このフィッティングをするかしないかで、快適さが天と地ほど変わる。グレゴリーは「靴のサイズ選びのように慎重に選ぶべき」と言っているくらいだ。
わかりました!お店で店員さんに測ってもらってきまーす!
Q&A:よくある疑問に答える
Q1: バルトロとパラゴン、洗濯はできますか?
できるぞ。ただし、洗濯機はNGだ。手洗いが基本だ。
浴槽や洗面台にぬるま湯を張って、中性洗剤を薄めて入れる。リュック全体を浸して、優しく押し洗いするんだ。特に汚れのひどい箇所、ヒップベルトの付け根や背面パッドは念入りに。すすぎは、きれいな水に数回取り替えながら、洗剤の泡や濁りがなくなるまで行う。
直射日光を避けて、風通しの良い場所で陰干しだ。すべてのジッパーを開けて、完全に乾かす。乾燥機やドライヤーは生地やコーティングを傷めるから絶対に使うな。
Q2: 寿命はどれくらいですか?
適切な手入れをすれば、5年から10年、場合によっては10年から20年以上使える。
グレゴリーは耐久性にも定評がある。丈夫なYKKジッパーを使っているし、縫製もしっかりしている。ただし、長持ちさせるコツがある。
- 体にフィットするように正しく背負う
- 荷物を詰め込みすぎない
- 雨の日はレインカバーを使用
- 濡れたまま放置しない
- 通勤・通学で毎日使う場合は、週に一度は休ませる
Q3: 修理はできますか?
できる。グレゴリーは修理サービスも充実している。ジッパーの交換、生地の破れの修理など、有償だが対応してくれる。公式サイトや正規販売店で相談するといい。
Q4: 飛行機の機内持ち込みは可能ですか?
容量によるが、基本的には預け荷物になる。バルトロ65やパラゴン68は大きすぎて機内持ち込みはできない。ただし、ズール40なら、航空会社によっては機内持ち込み可能な場合もある。事前に航空会社の規定を確認することをお勧めする。
Q5: レインカバーは必要ですか?
必要だ。バルトロは付属しているモデルが多いが、パラゴンやズールは別売りの場合もある。雨の日、リュックの中身が濡れると、衣類や寝袋が使い物にならなくなる。特にテント泊では致命的だ。
じゃあ、レインカバーは必ず用意しないとダメですね。
そうだ。それと、激しい雨の場合は、レインカバーだけでは不十分なこともある。重要な荷物(着替えや寝袋)は、スタッフバッグに入れてさらに防水対策をするといい。
Q6: 背面長の測定を間違えたらどうなりますか?
冗談ではない。背面長が合わないと、荷重が腰にうまく乗らず、すべて肩にかかる。肩が痛くなり、首が凝り、最悪の場合、下山できなくなる。だから、必ず店舗で測定してもらい、実際に荷物を入れて試着することを強く推奨する。
まとめ:あなたに合ったグレゴリーを見つけよう
先生、いろいろ教えてもらって、だいぶ整理できました!
それは良かった。最後にもう一度、選び方のポイントをまとめよう。
選び方のポイント
-
荷物の重さで決める
- 15kg〜18kg以上 → バルトロ
- 15kg以下 → パラゴン
- 10kg以下、小屋泊メイン → ズール
-
登山スタイルで決める
- 長期縦走、海外遠征 → バルトロ
- 週末のテント泊、UL志向 → パラゴン
- 日帰り、小屋泊 → ズール
-
体力と快適性のバランス
- 体力に自信がない、最高の快適性を求める → バルトロ
- 軽快に歩きたい、通気性重視 → パラゴン
- 背中の涼しさ最優先 → ズール
私は最初はパラゴンで、装備を軽くして、慣れてきたら長期縦走にチャレンジしてバルトロも欲しくなるかも!
それは素晴らしい計画だ。グレゴリーのリュックは高価だが、一度体験すると、他のリュックには戻れなくなる。「着る」リュックの快適さを、ぜひ体感してほしい。
最後にもう一度言うぞ。サイズ選びを間違えると地獄を見る。必ず背面長を測ってもらい、荷物を入れて試着すること。そして、店員さんにフィッティングの方法を教えてもらうんだ。